トピックスのとびら

図書館には図書、雑誌、神奈川資料、新聞、視聴覚資料、インターネットといったたくさんの情報のとびらがあります。
そのとびらを開いて、時事的な話題を複合的な視点から紹介します。

No.133 子どもの本と瀬田貞二(せた・ていじ) ― 生誕100年 ―(2016年8月発行)

 戦後の日本の児童文学界をけん引した瀬田貞二(1916-1979)。今年生誕100年を迎えます。『ホビットの冒険』『指輪物語』『ナルニア国ものがたり』や絵本『三びきのやぎのがらがらどん』『おだんごぱん』『マドレーヌ』シリーズをはじめとする数々の翻訳、『お父さんのラッパばなし』『きょうはなんのひ?』などの創作、昔話の再話、評論など、児童文学の世界で幅広く活躍されました。また、草子や絵巻、昔の玩具といったものから、出版されたばかりの絵本に至るまで、子どもにまつわる多くの事柄について深い造詣を持ち、子どものための本とはどうあるべきか生涯をかけて研究を続けられました。
 県立図書館では、絵本や物語などの多くの瀬田作品を読むことができますが、その中から児童文学の研究の足跡が分かる資料を中心に取り上げました。

図書のとびら

紹介資料表紙  『落穂ひろい ―日本の子どもの文化をめぐる人びと―』 上・下巻
瀬田貞二著 福音館書店 1982年  請求記号:909/128/1 (11884525)・909/128/2 (11884533) 書庫

 それまで未開拓の分野だった子どもの文化の歴史について、室町時代から大正時代まで、草子、絵巻、画噺、唱歌、雑誌や漫画など、特に研究があまりされていないものを中心に、『落穂ひろい』のタイトル通り丹念に掬い取り紹介しています。  本書は瀬田氏のライフワークをまとめたものですが、雑誌での連載後、本として完成させるには充分でない、と研究を続けている途中で亡くなり、後に出版されたので未完の書とも言えます。  本書には多くのカラー図版が挟みこまれていて、当時の子どもたちが繰り返し読み、触れ、親しんだ本や玩具を身近に感じられます。また当館では、ここで紹介された資料の多くを復刻版などで所蔵しており、併せて読むのもおすすめです。

紹介資料表紙  『子どもと文学』
石井桃子ほか著 中央公論社 1960年  請求記号:909/15 (11883253)書庫

 昭和31年より、瀬田貞二、石井桃子(児童文学作家、翻訳家、小説家)、いぬいとみこ(児童文学作家)、鈴木晋一(食生活史研究家、当時平凡社に勤務)、松居直(福音館書店『母の友』『こどものとも』初代編集長、現同社相談役)に、のちに渡辺茂男(児童文学作家、翻訳家)が加わり行っていた、子どもの本の研究会(ISUMI会)の成果をまとめた一冊です。6人で頭をつきあわせて当時の児童文学作品を読み込み、熱心に討議した様子が伝わってきます。この頃の活動については、雑誌『子どもの館』(1979年12月号)の石井桃子の追悼文「瀬田さん」や、松居直の著書『翻訳絵本と海外児童文学との出会い』(2014年 ミネルヴァ書房)にも詳しく書かれています。

紹介資料表紙  『なつかしい本の記憶』(岩波少年文庫別冊)
岩波書店編 岩波書店 2000年  請求記号:909JJ/279 (21274659) 書庫

 2000年に岩波少年文庫の創刊50年を記念してまとめられた本です。岩波少年文庫は、戦後の日本にもっと子供の読み物を…と石井桃子が中心となり海外のお話を選定・翻訳、1950年に『宝島』『あしながおじさん』などを皮切りに刊行が始まりました。刊行前、作品を選定するため、知識人500人に選定リストの作成を依頼していましたが、このとき瀬田氏に直接依頼はありませんでした。友人の社会学者・日高六郎氏経由で頼まれ作成したリストが石井氏の目にとまり、これが二人が知り合うきっかけとなった、と書かれています。
 本書には、文庫に携わった人々のエッセイのほか、中川李枝子・山脇百合子、池内紀・池内了、岸田衿子・岸田今日子の三組の兄弟姉妹が子ども時代を語る対談も収録されています。

紹介資料表紙  『松居直と「こどものとも」 創刊号から149号まで』 シリーズ・松居直の世界2
松居直著  ミネルヴァ書房 2013年 請求記号:289.1/5700/2 (22684724) 公開

 「こどものとも」は、創刊当時から現在に至るまで、多くの子どもたちが絵本に親しむ入り口となっている月刊物語絵本のロングセラー。福音館書店の松居直がこれを刊行するにあたって、どのような信念の元、誰に作品を依頼し、誰に挿絵をつけてもらったのか、創刊号から149号まで(1956-1968)の各作品の制作過程をエピソードを交え解説しています。昔話の絵本を作るときは、再話の多くを瀬田氏に依頼していました。『かさじそう』『ふるやのもり』『ねずみじょうど』などの作品は、今も色あせることなく読み継がれています。

雑誌のとびら

紹介資料表紙 「「幼年文学の表現についての覚書」(特集 幼年童話) 瀬田貞二」
『児童文学』聖母女学院短期大学 児童文化研究室 1973-1号 通巻第3号 1973年6月 p20-28 請求記号:Z909/502

 雑誌『児童文学』は、児童文学作家・今江祥智(いまえ・よしとも)が京都の聖母女学院短大で児童文学を講じていた頃、紀要として刊行されました。単色バックのタイトルに長新太のモノクロイラストの表紙が目をひきます。第3号の幼年童話の特集に瀬田氏も寄稿。「幼年童話」という言葉としての括りに本意ではないとしながらも、良い例としてルース・エインズワースやビアトリクス・ポターなどをあげ、子どもに書くお話は粉飾を排し、洗練されたものであるべきとする揺るぎない持論を展開しています。"

紹介資料表紙 「「『よあけ』の訳」(翻訳絵本特集) 瀬田貞二」
『月刊絵本』 すばる書房 第6巻第3号 1978年3月 p38-41 請求記号:Z019.5/11/ 6-1

 瀬田氏が翻訳したユリー・シュルヴィッツの『よあけ』は、シュルヴィッツが唐代の詩人・柳宗元の漢詩「漁翁」からインスピレーションを受けて作った絵本でした。山の湖のほとりで野営をした老人と孫が夜明け前に起き出し、支度をして、小舟で湖に漕ぎ出していく、というだけの出来事を、詩的で簡潔な文章と明暗を生かした色彩で印象的な作品に作り上げています。古典的な表現を取り込んだ美しい訳は、絵本の魅力を損なうことなく、さらに完成度を高めています。
 この翻訳絵本特集では、原文の一部を紹介しながら訳のポイントを瀬田氏本人が解説。「言葉をおしみながらページページが展開していくその呼吸 ―私もそれを感じとって日本語にしてみたかった」と述べています。

紹介資料表紙 「「瀬田貞二追悼」 石井桃子・日高六郎ほか」
『子どもの館』 福音館書店 79号 通巻2719号 1979年12月 p4-72 請求記号:Z909/501

 月刊誌『子どもの館』は、1973年から1983年まで、福音館書店より発行された児童文学雑誌です。瀬田氏が1979年に亡くなってほどなく同年12月号に追悼特集が組まれ、石井桃子、瀬川康男、梶山俊夫らおなじみの絵本作家や、日高六郎、松森務などの古くからの友人らが早すぎる死を悼んで追悼文を寄せています。また俳誌『萬綠』に掲載された初めての童話「風邪の機関銃」、単行本・新聞記事からパンフレット・カタログに至るまで網羅された著述目録も掲載されています。

新聞のとびら

 「最近の絵本を見る」(特集:こどもの読書週間) 瀬田貞二
『週刊読書人』 1962年5月7日 第424号 5面
 「ここ一、二年のあいだに出版された絵本を通じて、私は、日本の絵本がこれから上をむいてよくなるだろうというのぞみを持っています。物語の内容をどんなに適切に物語るかという絵の表現力は、いままで外国絵本に遠く及ばないでいたのが、数点ながら、ぐんとレベルにつきあげました。・・・(中略)もう、佐藤忠良氏くらいの絵本※になれば、子ども絵本の国際レベルにやすやすとはいっていると思います。・・・(後略)」
※『おおきなかぶ』(ロシア民話 内田莉莎子訳 佐藤忠良画 福音館書店)


 「トールキン先生の俤 ―英国・バークシャー地方の小村にしのぶ」 瀬田貞二
『毎日新聞』 1975年12月24日 夕刊 学芸面 5面
 「この秋、機会があったので、イギリスへ行った。・・・(中略)名だたるバークシャー地方なので、いたるところ草地が広がり、ヒツジなどが放牧されている。牧地には大木がそこここに立ち、森は黄葉している。・・・(中略)―この時私は、エルフにこそ出会わなかったが、トールキン先生の俤(おもかげ)に出会った。「指輪物語」の出端(ではな)、旅立ちの情景に嵌(はま)っていることをさとった。その旅行から帰ってみると、翻訳文化賞をいただくことになった。ことによると、これは所持者を呪縛(じゅばく)する指輪を頂戴したことになるのかもしれない。・・・(後略)」


 「わたしの新刊 『十二人の絵本作家たち』」 瀬田貞二:述
『毎日新聞』 1976年3月8日 朝刊 読書面 7面
 「『十二人の絵本作家たち』はもともと雑誌「月刊絵本」の創刊号(昭和四十八年五月)から十三号にかけて連載されたものに、手を加えて一冊の本にまとめた。・・・(中略)“子供を忘れて大人のひとりよがりにならない。印象批評でなく技術論、あるいは分析的な批評で、歴史的ななりゆきも……”が前編にみなぎって、非常に手ごたえのある評論になっている。・・・(中略)〔瀬田氏が〕この世界に入ったのは戦後、東京・日比谷のアメリカ文化センター※でアメリカのすばらしい絵本を見たのが契機とか。・・・(後略)」
※神奈川県立図書館では、同時期に設置された横浜アメリカ文化センターの約1万冊の蔵書を「ACC文庫」として引き継いでおります(館内利用可)。

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