かながわ資料ニュースレター第48号(2015年6月発行)

新着資料から

◆『「新編武蔵風土記稿」を読む』
 重田正夫・白井哲哉編 さきたま出版会 2015年 [K291/816]

  『新編武蔵風土記稿』は江戸時代後期に編纂された地誌で、『新編相模国風土記稿』と並び、神奈川県域の近世の調査には欠かせない資料です。
 「武蔵国」は、現在の埼玉県・東京都の大部分、神奈川県内では川崎市、横浜市の一部を指します(橘樹・久良岐・都筑の3郡が該当)。この本の編者が主に埼玉県で活動されている人なので、事例の多くは埼玉県となっていますが、神奈川県部分がないわけでもありません。たとえば「『新編武蔵風土記稿』の記述に郷土を読む」の章では「開港前の横浜の姿」として「久良岐郡横浜村・吉田新田」(現在の横浜市中区~南区)が、「『新編武蔵風土記稿』の挿図に郷土を観る」の章では「名所の眺望」として金沢八景(横浜市金沢区)が取りあげられています。
 「現代に暮らす私たちが、『新編武蔵風土記稿』を読み直し、生かしていくためのガイドブックとして」作成したというこの本をお手本にして、『風土記稿』を読み直してみませんか。

◆『地域ブランドブックス4 葉山 高質なスロースタイルブランドの実践』
 地域デザイン学会監修、立川丈夫・山梨崇仁編著 芙蓉書房出版 2015年 [K60.34/1]

◆『住む場所を選べば、生き方が変わる 葉山からはじまるシフトチェンジ』
 清野由美著 講談社 2015年 [K67.34/1]

 同じ町を取り上げた本が、偶然同時期に出版されました。『地域ブランド~』は、葉山町の地域ブランド戦略について、さまざまな面から分析した論文をまとめたもの。一方『住む場所を選べば~』は、葉山の文化と生活を担う人たちに通底する共通の価値観に注目して取材したweb連載をまとめたものです。
 さまざまな人の話を読む中から見えてくるものと、地域デザイン戦略の核となるものとは、同じものなのか違うものなのか――並行して読んでみるのもおもしろいのではないでしょうか。

新着のかながわ資料

新着資料の一部をご紹介します。

 
タイトル 著 者 出版者 出版年 請求記号
湘南の考古学鈴木一男六一書房2014K21.61/27
武蔵武士を歩く北条氏研究会勉誠出版2015K24/494
「鎌倉」の時代福田豊彦山川出版社2015K24.4/281
鎌倉幕府北条氏一門の研究渡邊晴美汲古書院2015K24.4/282
関東近世村落史の研究(山中清孝遺稿集)山中清孝創元社2015K25/230
横浜江戸散歩斉藤司神奈川新聞社2015K25.1/69
浦賀奉行所(有隣新書)西川武臣有隣堂2015K25.31/55
鎌倉遺文研究 第35号鎌倉遺文研究会吉川弘文館2015K27/75/35
横浜・神奈川生まれのジモト飯(ウォーカームック KADOKAWA2015K291.1/278
本厚木駅周辺まちづくり基本調査報告書 厚木市2006K31.92/25
横浜事件と再審裁判横浜事件第三次再審請求弁護団インパクト出版会2015K32.1/93
海軍伏龍特攻隊門奈鷹一郎潮書房光人社2015K39/105
工場夜景工場ナイトクルーズ二見書房2015K50/129
エリアナ・パブロバ 白鳥に捧げるレクイエム 鎌倉パブロバ記念館[記載なし]K76.4/22
和英語林集成の研究木村一明治書院2015K83.1/47

うちのおたから自慢 『婦人の手帳 社会教育資料第十一集』
神奈川県教育委員会 1953(昭和28)年 [K379/0/84/53]

 この4月、県立かながわ女性センター(旧称:婦人総合センター)は、江の島から藤沢合同庁舎に移転し、「神奈川県立かながわ男女共同参画センター(通称:かなテラス)」となりました。これにともない、女性センター図書館で所蔵していた8万冊以上の女性関連資料類が県立図書館に移管され、「女性関連資料室」が誕生しました。県内に限らない女性問題に関する資料はそちらのほうが充実していますが、県内については、“神奈川資料”としても所蔵しています。今回は、そのような資料から1冊をご紹介します。
 アジア・太平洋戦争の終戦により始まった連合軍による占領期に、GHQは日本の「民主化」には女性解放が不可欠であるとして、女性参政権などの制度改革や女性の地位向上に指導力を発揮しました。その一つとして、民主的女性団体の結成も推奨されました。
 この本は、「婦人の解放」を含む「民主化に関する五大改革指令」から8年を経た年に、婦人活動の現状や課題解決のヒントを示す目的で作られました。地味な表紙で、酸性紙のため中のページも赤茶色に焼けています。内容は、「婦人教育の動きと課題」「婦人団体の動向」に分かれ、参考資料として巻末に「男女共学は如何にあるべきか」などの文章が掲載されています。中を読んでいくと、「(婦人問題は)対男性の問題ではなく、人間の権利が生かされているかどうかから考えたい」という記述とともに、「次代の子供を(中略)育てていく母性の任務と領域」という面を第一義にして婦人教育の重要性を述べる部分もあるなど、人により主張が違っています。それまでの考えを改め、「男女平等」や「女性解放」などの新しい思想を受け入れるのが、一般の人にとっていかに難しいことだったかを想像させます。

婦人の手帳

【参考文献】
『かながわの女たち’45~’90 共生への航路』神奈川県立かながわ女性センター かながわ女性史編集委員会編著,ドメス出版,1992年 [請求記号:K36/329/2]

100年前の“観光地”  横浜貿易新報社選「新避暑地十二勝」より
【新避暑地十二勝 第1位 今泉不動】
――「横浜貿易新報」大正3年7月14日(火)7面

 鎌倉市今泉にある称名寺は“今泉不動”とも呼ばれ、滝が有名で、平成10(1998)年に実施された「かまくら景観百選」にも選ばれています。近くには江戸時代に灌漑用に作られたという散在ヶ池(鎌倉湖)を中心にした散在ガ池森林公園があり、その周囲には閑静な住宅街が広がっています。砂押川が流れる谷戸の最奥に位置するこのお寺は現在、ゴルフ場とクリーンセンターに挟まれていますが、100年前はどうだったでしょう。
 まず行き方ですが、大船駅から人力車で40銭だが、道が悪いので45丁だし歩いた方がましだ、と勧めています。(今ならバスで20分ですが、当時は交通の便がよくなかったようです。)出発してすぐに左手に見える柏尾川は暴れ川でよく氾濫するが、「郡会の大問題として本年度こそは是非共改修する事に決する筈だといふ」。(しかし、その後もたびたび洪水を起こしています。)
 今泉不動一番の見どころは、境内にある男滝・女滝で、弘法大師が刻んだ不動尊と大黒天のために不動明王と弁財天の化身が出現させたという謂れが書かれています。源頼朝が信仰し北条氏も庇護したもののさびれてしまい、江戸時代に貞誉蓮入〈テイヨレンニョ〉大僧正※が再興したなどという寺の歴史も、『鎌倉名所記』を引きながら紹介されています。住職のエピソードは時代を感じさせます。
 此頃の事氏(=住職)は提灯の代りに懐中電灯を買つて夜道を麓から帰つて来る途中で消えて了つた。嗚呼其寿命の短さよ 氏は嘆息して更に今度は値段の高い奴を買つて見たが、矢張物の三十分で用を足さなくなつた。茲に於てか氏は文明の利器の果敢なきを知つたといふ。蓋し氏は明りを点け通しにしたに違ひないが一寸面白い話だから書いて見た。(以上、原文表記のまま)
懐中電灯は点けたまま使用してはいけなかったということが驚きです。
 ほかにも記事には、寺宝・伝説、周囲の名勝や民謡などが紹介されています。また、境内には滝に打たれて療養する人や避暑客のための宿泊施設があったそうです。人里離れた滝の趣きは、さぞ涼感をさそったことでしょう。
※もと圓宗寺といい、貞享期に直誉蓮入が再建、元禄期に貞誉大僧正が今の山寺号を授けた、というのが正確な由来である。

女瀧(左)と不動尊(中央)と男瀧(右)

【参考文献】
『水の出る街、大船-佐々木泰三伝』佐々木泰三,1999年 [請求記号:K28.4/91]
『新編相模国風土記稿 第五巻』蘆田伊人編集校訂,圭室文雄補訂,雄山閣,1998年 [請求記号:K291/1D/5]
鎌倉市ホームページ