かながわ資料ニュースレター第46号(2015年2月発行)

新着資料から

◆『相模の古代史』   
鈴木靖民著 高志書院 2014年 [K23/55]

  本書は、奈良・平安時代を中心とした古代相模の地域史を明確にすることを目的としています。昭和59(1984)年に綾瀬市宮久保遺跡で木簡が出土したことを契機に、著者が相模の地域史研究に着手して以来の、県内各地で行なわれたシンポジウムの報告や講演、市史や史料紹介などの文章をもとに、現在の研究状況を踏まえて執筆し直したものです。
 まず、これまでに出土した県内における木簡の調査研究の成果をくまなく紹介しています。次に、古墳時代の南武蔵の様相や、奈良・平安時代の相模国高座郡の郡家と郡司の機能、寺院や祭祀の実態を考察しています。さらに足下郡(足柄下郡)・高座郡の郡家周辺の様相を確認し、加えて大住郡の国府所在地(平塚市)の景観について推察しています。また、相模における渡来人の動向、渡来文化の実態についても概観しています。

◆『現場発!生活保護自立支援川崎モデルの実践 多様な就労支援が生きる力を育む』
川崎市生活保護・自立支援室編 ぎょうせい 2014年 [K36.21/192]

  本書は、生活保護受給者に対して自立支援を行なっている現場の生の声を 取り上げることに主な力点を置いています。
 具体的には、生活保護受給者の荒んだ生活環境の改善を目指すケースワーカーの奮闘や、悪条件の中で何とか本人に適した職を探そうと努力する就労支援員の試行錯誤、国の行政機関であるハローワークと川崎市の福祉事務所との組織の枠を超えた連携、障害者就労移行支援事業所を運営する会社が持つ仕組みを生活保護受給者に応用する試み、人材派遣会社の大手への就労意欲喚起・就業訓練・求人開拓事業の委託、ITサポート会社との連携による雇用の創出など、川崎市が手がけた先進的かつ実践的な取り組みの数々を紹介しています。
 自治体における生活保護・自立支援の仕組みがよく理解できる1冊です。

新着のかながわ資料

新着のかながわ資料の一部をご紹介します。

タイトル 著 者 出版者 出版年 請求記号
もっと知りたい神奈川県の歴史小和田哲男洋泉社2014K21/118
遺跡保護行政とその担い手須田英一同成社2014K22/66
鎌倉府と地域社会山田邦明同成社2014K24/490
後北条氏の武蔵支配と地域領主井上恵一岩田書院2014K24.7/159
武蔵上田氏黒田基樹岩田書院2014K28/444
まず薬局へおいでなさい天野宏みみずく舎2014K28.1/598
房総里見氏滝川恒昭戎光祥出版2014K28.39/39
詳細地図で歩きたい町横浜JTBパブリッシング2014K291.1/276
鎌倉の地元遺産100鎌倉地元民の会毎日新聞社2014K291.4/430
ふってもはれても川和保育園新評論2014K36.18/37
検証ワタミ過労自殺中澤誠岩波書店2014K36.31/75
混血孤児汐文社2014K36.61/37
城下町の民俗的世界西海賢二岩田書院2014K38.7/26
ホームレス農園小島希世子河出書房新社2014K61.52/19
相模鉄道広岡友紀JTBパブリッシング2014K68/533
箱根登山鉄道80‰の四季源明輝オークラ出版2014K68.85/158
箱根駅伝全90大会完全データBOOK宝島社2014K78/295
オウリィと呼ばれたころ佐藤暁理論社2014K91.1/97

コラム・かながわ・フォーカス

[神奈川の祭り ~昭和の記録写真から~]

≪仙石原の湯立(ゆだて)獅子舞≫…足柄下郡箱根町(仙石原諏訪神社)
  国選択・県指定無形民俗文化財

 ◆写真撮影日:昭和39年3月27日 [請求記号:K48]

【解説】
  湯立とは、神前に大釜で湯を沸かし、巫女や修験者などが笹を釜の湯に浸して周りに振り掛ける清め祓いの儀礼で、神楽と結びついた湯立神楽が各地にみられます。しかし獅子舞が湯立を行う例は、全国に3件(他に箱根町宮城野、御殿場市沼田)しかありません。『神奈川県民俗芸能誌』によれば、仙石原の「神楽字引」と、御殿場市沼田の「法神楽辻引」という古文書の記載から、安永5(1776)年に甲斐国郡内下吉田村(山梨県富士吉田市)の萱沼儀兵衛が当地に湯立獅子舞を伝えた、としています。
 湯立の斎場は鳥居と、向かって左にある神池との間に設けられ、忌竹を四方に張り、中央に太い木で支えられた大釜を設置します。社殿に向かう石段の登り口の左側には神棚を据えて幣束を立て、熊笹を束ねた“湯笹”を供えます。
 儀式は宮舞・平舞・剣の舞・禊・行の舞・宮めぐりの舞・釜めぐりの舞・湯立の順に進みます。宮舞は、二人立ちで舞い、次に胴幕を体に巻きつけ一人立ちとなり装束と鈴を持ちます。宮舞のみ裸足で行い、他の舞は草鞋を履きます。剣の舞も最初は二人立ちで舞い、次に一人立ちで右手に装束を持ち、左手を高く上げて人差し指と中指を立てる剣印という仕草をします。最後に剣と鈴を持ちます。禊は関係者全員で行なわれ、昔は裸で神池に飛び込みましたが、撮影時は岸で榊葉を浸し、身に振り掛けるのみとなっていました。後に褌姿で池に入るようになります。行の舞は平舞と同内容です。釜めぐりの舞は、一人立ちで剣を持ち釜の周囲を右に回ります。そして四隅で足踏みをし、大釜に進む時に右足を火の中に踏み出します。続いて湯立が行なわれ、氏子らに湯が撒かれます。この湯を浴びると一年間無病息災であるといわれます。

平舞の写真
写真1
平舞:写真は幕の舞。二人立ちで、後立が胴幕の内側で棒を高く掲
げる。伊勢神宮の巫女神楽を擬して、常に両膝をくっつけて舞う。
剣の舞の写真
写真2
劔の舞:一人立ちで、左手に剣、右手に鈴を持って舞う。
宮めぐりの舞の写真
写真3
宮めぐりの舞:石段の最上段で社殿を背に、脇役としゃがみ、3人
で剣と鈴を持つ。左端に塩を撒く者がいて、皆で呪文を唱える。
湯立の写真
写真4
湯立:釜を幣束で3回掻き廻した後、湯笹で掻き廻し、
拝殿に登って湯笹2本を打ち合わせて、湯を撒く。

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【参考文献】
『神奈川県文化財図鑑 無形文化財・民俗資料篇』 神奈川県教育庁社会教育部文化財保護課編 神奈川県教育委員会 1973年 [請求記号:K06/29/3]
『神奈川県民俗芸能誌 増補改訂版』 永田衡吉著 錦正社 1987年 [請求記号:K38/15A]
『箱根仙石原湯立獅子舞』 勝俣初男著 箱根湯立獅子舞保存会 1975年 [請求記号:K38.85/3]

(兼松 記)

コラム・かながわ あの人・この人

井上 福松【いのうえ ふくまつ】 明治2(1869)年―昭和12(1937)年

  井上福松は、馬渡村(後の岡崎村で現・伊勢原市)に生まれました。祖先は織田 信長の家臣、奥田忠兵衛と伝えられ、先代の音五郎から井上家に入っています。 明治30(1897)年に三重県の農事改良家である古市与一郎の稲作練習所に入門しま した。明治33(1900)年に明治衡農実業補習会の講師嘱託となり、同年に中郡農会 技術委員に招聘されます。明治35(1902)年に中郡農事技手に任命されました。
 明治40(1907)年に小田原で開催された、中央報徳会主催の「小田原夏期講演会」 に参加した井上は、遠江国報徳社(後の大日本報徳社)社長である岡田良一郎の講 演を聞いて感激しました。そして静岡県小笠郡倉真村(掛川市)にある岡田の自宅 を訪ねて直接指導を受け、中郡への講師派遣を依頼します。岡田は山田猪太郎・ 鷲山恭平を派遣し、中郡内の各地で講演会を開催させました。山田・鷲山は報徳社 結成手続きの指導も行い、同年に50余社の報徳社が結成されます。その結果、岡崎 村馬渡に中郡出張所が設置され、毎月の常会に本社から講師が派遣されることにな りました。明治41(1908)年に井上は、馬渡報徳社を設立します。
 当時の井上の様子を『横浜貿易新報』は、 明治42(1909)年に「左記の俗謡を作して 村童風教上の矯正一助にせり」と報じ、そ の歌詞を掲載しました。また、翌年には 「相模國報徳社取締の地位にあって農事道徳、農事の啓発、勤倹 推譲、悪風矯正等の善風を熱心鼓吹し」と書いています。
馬渡報徳社は、大正7(1918)年の創立10周年記念祝賀会にて、 社員45名、報徳金2827円を数えました。祝賀会では、報徳の原理 を抜粋し井上が編纂した「徳之府」という巻物が配られています。 大正11(1922)年に馬渡報徳社は、県知事より助成金50円が交付 されました。また、井上が指導した愛甲郡春日報徳社(厚木市)と 高座郡吉岡報徳社(綾瀬市)が、知事より表彰を受けています。
 一方、明治42(1909)年には遠江国報徳社の訓導となり、大正2 (1913)年には大日本報徳社の参事に就任し、大正11(1922)年 から亡くなるまで講師を勤めました。

井上福松の写真
「井上福松」
『自治団体之沿革 (追穂) 神奈川県名誉録』
篠田皇民著 東京都民新報社 1927年
[請求記号:K28/26B/2-1a]

報徳及結社の栞
『報徳及結社の栞 増訂』山田猪太郎著
山田猪太郎著 大日本報徳学友会 1908年
[請求記号:K157/410]
P.153(右側)に
「本社常會ハ各館ノ外左記出張所ニ於テ毎月開會スベシ」
と記載があり、次頁(左側)に
「神奈川縣中郡岡崎村 中郡出張所」とある。

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【参考文献】
『横浜貿易新報 明治42年4月(1)』 横浜貿易新報社 1909年 [請求記号:K07.1/33/265]
『横浜貿易新報 明治43年1月(2)』 横浜貿易新報社 1910年 [請求記号:K07.1/33/284]
『報徳運動100年のあゆみ』 八木繁樹著 龍溪書舎 1980年 [請求記号:K157/313]
『近代西相模の報徳運動』 早田旅人著 夢工房 2013年 [請求記号:K157/674]
『自治団体之沿革(追補)神奈川県名誉録』 篠田皇民著 東京都民新報社 1927年 [請求記号:K28/26B/2-1a]  

 (兼松 記)