平成28年度「社会・人文系再発見シリーズ」連続講演会 ◆ 講演録

女性活躍からその先へ -男女ともに生きやすい社会をめざして 第3回


「男女共同参画は日本の希望」

  山田 昌弘氏 (中央大学文学部教授)
  平成29年2月19日(日) / 神奈川県立図書館 新館4階セミナールーム

【講演概要】

山田氏の写真  社会学は、人に危機感を与える学問であるような気がしています。例えば大学の授業で、生涯未婚率の高さ、離婚率の高さについて「結婚して、さらに離婚もせずに済むのはこの中の半分だけだ」と説明すると、学生は暗い顔をして帰っていきます。女性活躍について日本は後進国です。ただ、「後進国」ということは、伸びしろがあるということで、家族社会学を専門に研究し、家族の見たくない側面を明らかにしていくなかで、女性活躍は、唯一先が明るい分野とも言えます。
 日本は経済、政治の分野での女性の進出が大変遅れています。政界では女性の首相はおろか大臣も少なく、女性国会議員の比率は2010年をピークに減少しています。経済界では管理職、経営層ともに女性比率は低く、世界最低レベルです。ただし、国際機関に直接雇用されている専門職以上の日本人は、女性の方が多いようです。高等教育の在学率は、諸外国では女性の方が、大学進学率が高いのですが、韓国と日本だけは男性の方が高くなっています。
 神奈川県では、町村議員、市会議員等の政治分野の女性進出が全国と比較して進んでいます。一方、労働分野において、女性管理職の比率は全国平均より低く、30-34歳の女性労働力率は全国最下位です。男性の収入が高いとも言えますが、労働分野での女性進出は遅れています。
 世界経済フォーラムによると日本の2016年の男女平等度は114か国中111位です。宝塚歌劇『銀河英雄伝説』のセリフに「地球上で女性を侮った国は発展しませんでした」とありますが、日本の経済は1990年以降停滞し、すでにアジアNo.1ではありません。女性の活躍が遅れることで、少子化の深刻化、経済の低迷など、様々な社会問題が起きています。

 近年、女性の活躍が推進されていますが、遡れば、673年の天武天皇の詔には女性の出仕が年齢・既婚未婚問わず認められており、日本では当時、女性の活躍が進んでいたことがわかります。日本の歴史の中でこれほど女性が政治的に活躍していないのは、近代になってからの現象です。
 戦前までの農業社会では、男女ともに家もしくは近所で農作業・生産活動をして働いていました。戦後-1990年に工業社会となり、男が外に出て仕事をし、女が家事を主に担当する性別役割分業が確立しました。この前提となる「男性の収入が安定していてかつ上昇し続ける」条件が整っていた1990年代までは、女性が経済的に活躍しなくても、豊かな暮らしが成り立っていました。しかし、1995年~ポスト工業社会で、経済・社会の構造が大きく転換したことで、経済成長力の低下、雇用の流動化が進み、男性の収入が不安定になってしまいました。この状況に対応するために、女性の特に経済分野での活躍が必要になっています。

 OECDの男女の就業ギャップ指数の各国の表を見ると、平均値よりギャップが大きい、つまり平均より男性が多く働いている国は、財政危機を抱えていることがわかります。日本は平均を超えていながら、財政危機がそれほど深刻ではないのですが、それは高齢者の就業率が高いことが理由です。女性が経済的に活躍しなければ、経済がもたない状況にあります。
 女性の活躍が経済活性化のカギとなる根拠として、女性が活躍している企業ほど利益が伸びているという事実があります。大げさに言えば、工業社会は男性が力任せに大量のものを作っても売れた時代でした。しかし、多くの人にものが行きわたった今、新しい経済の中では付加価値のある商品しか売れず、モノを売るほかに対人サービスが発展してきています。このため、企業には多様な人材が必要になり、コミュニケーション能力や、相手の望みを察する力が重視されるようになりました。女性は、子どものころからの友達づきあいの中で、これらの力を訓練する機会が多く持てるようです。 講演中の写真
 また、先進国の中で女性が働いている国は、少子化対策に成功する傾向があります。日本や韓国、イタリアなど、超低出生率国は女性の労働力が低い傾向にあります。家族形成力が低下しているのです。男性一人の稼ぎでは、従来の性別役割分業家族を維持することができないことから、男性は収入が高くならないことを理由に結婚をあきらめ、女性は収入が高い男性と出会うまで待つ状況にあります。実際、日本の女性の64%が結婚相手に400万円以上の年収を望んでいるという調査結果がありますが、年収400万円以上の男性は全体の25%のみであり、さらに男女とも非正規雇用の割合が増加しています。未婚率は上昇し、親と同居する未婚者、壮年未婚者が増加しています。
 一説に、離婚が多いのは女性の正社員が増えたからだ、と言われていますが、フルタイムの共働きが多い教員・公務員が減少した今、フルタイムの共働き家庭も減少しています。増えているのは、妻もしくは夫婦両方がパートタイムの共働き家庭です。景気の低迷には消費の減少が深く関わり、その原因には男性世帯主の収入の低下がありますが、フルタイムの共働き家庭は消費も活発で、経済的によい生活をしています。正規共働き男性の小遣いがその他の同収入の男性の1.5倍であるという調査結果もあり、正社員の共働きを増やすことで、経済を活性化させることができます。

 女性の経済的活躍を阻んでいるのは、新卒一括採用に年功序列・長時間労働の労働慣行と、専業主婦と正社員男性を標準とした社会保障です。これらをセットで変えていかなければ、正社員男性と専業主婦という枠からはみ出ることができず、その枠にはまれない人は結婚しにくいのです。さらに、職場に女性差別が残る場合も多いようです。直接的な嫌がらせ以外にも、女性は優秀でなければ出世できないのに対し、「家庭があるから」という理由で能力の低い男性が解雇されず、勤務年数に応じて出世することも、女性のやる気を大きく削ぐ、女性差別といえます。このような日本での働きにくさがあるため、アジアに転勤して働いた後、日本に戻らず現地で働き続ける女性もいます。若い女性には正社員/非正規社員・専業主婦など、選択肢があるように見えて、全選択肢でうまくいかない女性が増えている状況です。こういった問題を解決するためにも、雇用慣行の改善、社会保障制度の見直しが必要です。神奈川県の場合は、特に指導的地位につく女性の割合を増やすことが必要でしょう。ビル・クリントン元米大統領の演説に「過去は過去、過去を追い求めると未来を失う」という言葉があります。ただ、未来が明るいとは限らず、われわれは過去にしがみつきたくなるようです。未来のために、女性の活躍の一層の推進が必要です。

【質疑応答】
◆女性が「自分の子どもが背が低くなるとかわいそうだから、背の高い男性と結婚したい」と言うという話がありましたが、本当は自分が背の高い男性と結婚したいだけなのではないか。
→そういう人も中に入るかもしれないが、本当に子供のためにと思っている人もいる。

◆女性活躍のため、個人にできることは具体的にどのようなことがあるか。
→制度的慣行を変えようという意識が必要。「あなたがファーストペンギンに」、と言いたいところだが、まずは意識し、出来ることから改善していくと良い。

◆職場の女性が、夫の転勤を理由に退職した。転勤という制度が家庭を崩壊させているのではないかと思うのだが、転勤が減れば女性はより働きやすくなるのではと思うのだが。
→日本では転勤を断ると不利益をこうむることが判例として認められている。さらに、転勤を断り退職しても、再就職がしにくい。国際的に転勤制度はあるが、日本の場合は転勤制度と労働慣行が組み合わさってしまい、より女性の活躍を阻んでいる。

◆社会保障が変わらないのは、政治家がその社会保障制度でうまくいってきた世代だから変えたくないということがあるのか。
→正しい見解である。50代以上はそれでうまくいってきた世代である。政治家は中高年の支持がある為、その世代の意思が反映され、制度の変更が難しい。

◆社会的に多数派となる部分の、効果的な取り組みの実例があるか。
→地方の中小企業が最も多数派である。その層の責任者の意識が変化することが重要である。


※ 連続講演会に関連する資料、神奈川県の資料を会場後方に展示した。 会場写真1 会場写真2