『脳のなかの幽霊』 V.S.ラマチャンドラン,サンドラ・ブレイクスリー著

脳のなかの幽霊『脳のなかの幽霊』 V.S.ラマチャンドラン,サンドラ・ブレイクスリー著 山下篤子訳 角川書店 1999年 資料番号:21199633 請求記号:491.37/40 OPAC所蔵検索

 怪しいタイトル、不思議なカバーイラストレーションで、どのような内容の本?(もしかしてトンデモ本?)と思わせますが、まともな脳科学の本です。
 著者V.S.ラマチャンドランは、インド出身のアメリカの神経科医、心理学・神経科学者。そして、サンドラ・ブレイクスリーはニューヨークタイムズ紙などに寄稿する著名なサイエンス・ライターです。
 
 本書には、ラマチャンドランの独創的な臨床研究によって得られた脳科学の知見の数々が紹介されています。ラマチャンドランは、病気や事故で身体に障害を負ったり脳の一部の機能が停止してしまった患者の症例を手掛かりに、脳の仕組みや働きを一般の読者向けにやさしく解き明かしていきます。
 例えば、第2章および第3章でとりあつかっている「幻肢」。これは、手や足を切断した人が、消失した手や足の部分をまだあるかのように感じる現象です。またそれだけではなく、存在しない手や足に痛みを感じる「幻肢痛(ファントム・ペイン)」という症状がでることがあります。
 なぜ存在しない手や足が痛むのでしょうか。痛む手足がそもそも存在しないのですから、検査も治療もできるわけがなさそうです。ところがラマチャンドランは、独創的な装置「鏡の箱」を考案して、「幻肢痛(ファントム・ペイン)」の治療に成功します。鍵は、脳が身体をどう認識しているか、にありました。
 他にも、「半側空間無視」(見えているのに視野の半分しか意識できなくなる現象)、「盲視」(本人は何も見えていないと言うのに、見えているのと同じように行動ができる現象)、「カプグラ症候群」(近親者を本人と認めず偽物だと主張する現象)などの症例を通して、脳の不思議さが次々に語られます。
 さらには、「想像妊娠」に見る心と体の不思議な関係から、最終章では、心とは何か、意識とは何かという大問題に迫ろうとします。
 
 本書の本文は、一般読者向けに書かれていますが、さらに詳細を知りたい読者のためには、なんと74頁もある詳しい注釈および参考文献リストがあります。本書を手に取るあなた次第で、どのようにも読み込んでいくことが可能です。
 2005年にはラマチャンドランの講演をまとめたという『脳のなかの幽霊、ふたたび』が刊行され、2011年にはどちらも文庫版が刊行されました。最初に発行されてからはかなりの年月が経ちますが、息長く読まれている名著だと思います。

(県立図書館職員:図書館のなかの幽霊)