『十一月の扉』 高楼方子著

『十一月の扉』 高楼方子著 リブリオ出版 1999年 資料番号:21222013 請求番号:913 タ OPAC(所蔵検索)

 「このまま読み進めていったら物語が終わってしまう!」そう思える本に出会ったことはありますか?私にはこの本がそうでした。
さて、物語では中学校2年生の女の子、爽子が主人公。ある日爽子は、弟から借りた双眼鏡で赤い屋根の素敵な家を発見します。その家を近くで見たくなり、爽子は自転車で町を探検し、ついにその家に辿りつきます。そこは「十一月荘」という下宿屋でした。下宿したいと思ってしまうのが怖くて、嫌なおばさんが大家さんなら…という期待を裏切り、中から出てきたのは、てきぱきとしてとても感じの良い婦人でした。爽子はその家を目標に来たと思われるのが恥ずかしかったので、さりげなさを装い帰途につきます。ところが、簡単な帰り道のはずなのに、どういう訳か迷い、ある文房具店に行きつきます。そこで出会った素敵だけれど高価で、ドードー鳥の装飾が施された一冊のノート。爽子は思い切ってそのノートを買ってしまいます。そして、そこの店主に道を聞き、家に帰り着くことができます。
 翌日、お父さんが転勤になり、転校しなければならないことを知らされます。そこで爽子はお母さんに、二学期の途中で転校するのではなく、二ヶ月間下宿をし、三学期から新しい学校に行きたい。と申し出ます。反対されると思っていた爽子。しかし、十一月荘を見学に行ったお母さんもすっかり気に入り、お父さんからも許しが出て、話はとんとん拍子に。学校には知人の家から通うことにして、下宿をすることになります。その事は爽子だけの秘密です。親友のリツ子を除いては。
 ここから彼女の、わくわくドキドキの物語がスタートします。十一月荘に住む様々な背景を持つ人々の人間模様や彼らと爽子との心温まる交流、中学生ならではの純粋で淡い恋。あの文房具店も物語の中で重要な役割を果たします。そして、もう一つ。爽子の宝物になったドードー鳥のノートに綴られてゆく爽子自身が描く物語。本書の中ではこの二つの物語が並行して進んでいきます。どちらの物語も面白く、どんどん読み進んでしまいます。

 大人が児童書?そうなのです。児童書は子どもも大人も楽しめます。「大人の本にべストセラーはあってもロングセラーはなかなかない。しかし、子どもの心に残る児童書の多くはロングセラーである」と言われます。現に児童書は長い間読み継がれます。「君たちはどう生きるのか」のように形を変えても。好みはあると思いますが、秋の夜長、昔読んだ児童書を、また興味を持たれた方はこの「十一月の扉」を手に取ってみませんか?
 この作品の著者である高楼方子さんは、北海道の時計台を連想させる舞台展開の中で、異次元に迷い込み、ぞくっとするような体験をするミステリアスな「時計坂の家」や、過去と現在が交錯する、ちょっぴり切なくて、悲しくて、ほっこりする「緑の模様画」など、不思議な体験をさせてくれる作品を数多く手がけています。

ペンネーム:柴♡命