『古書修復の愉しみ』 アニー・トレメル・ウィルコックス著 市川恵里訳

『古書修復の愉しみ』 アニー・トレメル・ウィルコックス著 市川恵里訳 白水社 2010 資料番号:22476824 請求記号:014.66/2  OPAC(所蔵検索)

 最近、「普段は見られない○○の裏側見学ツアー募集」という文字をよく目にするようになりました。そんな折、他の図書館の修理見学ツアーを募集しているのを知った私は早速申し込んでみました。ところが、裏側はなんでも人気なのでしょうか。既に定員に達したあとでした。気持ちを紛らわせるためにこの本を手に取ったのですが、これは裏側を知る本でもありました。普段見ることのない大学図書館の修理修復の世界を垣間見ることができます。
 著者アニー・トレメル・ウィルコックスは製本・書籍修復家で、修復しているのは西洋古書稀覯本です。もちろん行われている内容手順も専門的です。それだけ聞くとさぞかしわかりにくい内容だろうと思われるでしょう。ところがそうでもありません。
 まず、読み始めてほどなく、和紙、紙漉き、砥石他、日本に関するキーワードが多く登場し、とても親しみがわきます。
 それから、アニーは日本人職人の著書を読み、日本風の職人制度に感銘を受けていたので、師であるウィリアム・アンソニー(以下ビルと呼ぶ)を日本的な意味で職人としても見ていました。アニーのビルに対する尊敬と信頼が根底に流れているのを感じながら、この本を読んでいただければと思います。すると普段馴染みのない世界が読み手にぐっと近づいてきます。
 弟子と師のやり取りは一見淡々と過ぎていくようにみえますが、アニーが常にビルの手元を見つめている状況が浮かんできます。「私たちの本に何か困ったことが起きてもあわてなかった。ただ落ち着いて、丁寧に、誤りを直すのを手伝ってくれた。製本では直せない間違いはないというビルの言葉を聞くとほっとした」その一節からは、尊敬する師と出会えたアニーの幸福感や安心感にこちらまで包まれます。
 訳者の市川恵里氏は本書を訳すにあたり、実際に書籍の修理保存の実技講座に一年半近く通われました。そのことも本書と読み手の距離を近づける理由の一つでしょう。
 製本・書籍修復の裏側を知るとともに、書物を中心に置いた様々な思いを受け取ることができる一冊です。

(図書館員 手仕事修行中)