『みだれ髪 チョコレート語訳』 俵万智著

『みだれ髪 チョコレート語訳』 俵万智著 河出書房新社 1998年 資料番号:110873916 請求記号:R13.1タワ  OPAC(所蔵検索)

 俵万智さんといえば、誰の心にも届くわかりやすい表現で若い女性の生活や心を歌った『サラダ記念日』(1987)が有名ですが、今回は『みだれ髪 チョコレート語訳』をご紹介したいと思います。
 『みだれ髪 チョコレート語訳』の原書は、与謝野晶子の歌集『みだれ髪』です。ちょうど今年は、この歌集の著者である歌人・与謝野晶子(1878~1942)の生誕140年にあたります。
 『みだれ髪』(1901)は、晶子が23歳の時に第1集が刊行されます。与謝野鉄幹との恋愛の情熱をまっすぐに、大胆な表現で三十一文字の短歌に込めた歌集です。明治時代の革新的な気風がある一方で、古いしきたりや閉塞的な道徳観念に縛られた時代に、この歌集は当時の若者を中心に一大センセーションを巻き起こしました。
 そして、『みだれ髪』の晶子の情熱をそのままに、五七五七七のリズムにのせて俵さんが現代の恋愛にアレンジした歌集が『みだれ髪 チョコレート語訳』です。チョコレート語訳とは、「私っぽい」訳という意味と甘くほろ苦い魅惑的なチョコレートのような歌にしたいという希望が込められているそうです。なお、この名前は歌集『チョコレート革命』(1997)にちなんでいます。本書は見開きに3首ずつあり、チョコレート語訳した歌の横に晶子の歌が載せてあります。歌の解説や現代語訳はありません。俵さんのチョコレート語訳は、100年以上も前の明治の女性である晶子の恋愛を、現代人が実感できる歌にして瑞々しく甦らせてくれます。近代短歌と現代短歌のそれぞれの時代において、革新をもたらしてくれたふたりの共演が楽しめます。
 この翻訳方法は、俵さんが高校の国語教師として古典の授業で短歌を教えていた時に、短歌の現代語訳文は言い回しが不自然で長く、短歌を味わうことができないと感じて三十一文字の現代語訳にすることを思いついたそうです。
 短歌について知りたくなった方には、俵万智さん著作の『短歌をよむ』(1993)もお勧めします。短歌には二つの「よむ」があって、千年以上も前から歌い続けられてきた短歌の世界を知ることは短歌を「読む」であり、それと同時に今の自分自身を見つめることは、短歌を「詠む」というそうです。古典短歌から現代短歌まで「よむ」楽しさを教えてくれます。俵さんの創作過程も詳しく書かれています。私もひとつ創ってみようかな、と奥深い短歌の世界に足を踏み入れたくなる一冊です。

*参考文献:俵万智 「与謝野晶子『みだれ髪』チョコレート語訳の挑戦」
『文芸春秋』1998年9月特別号(第76巻第9号),p222-228 

(県立図書館:甘くほろ苦いチョコレート)