企画展示「かながわと温泉 文学に描かれた温泉~文豪との関わり」開催中です!

 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に向けた取り組みが神奈川県でも行われていますが、図書館では、神奈川の文化発信として、「神奈川と温泉」を取り上げた展示を開催しています。
 日本は火山国であるがゆえに温泉という恩恵を受けています。神奈川県には世界的に有名な箱根をはじめ、万葉の頃から世に知られ、古代には「薬師の湯」と呼ばれた湯河原、丹沢には武田信玄の隠し湯といわれた中川温泉など、数多くの温泉があります。こうした温泉には、湯の成分が薬のような作用をしたり、温熱や水圧による血行促進、温泉地の風景、森林浴等の環境によるストレスの軽減など健康になる効果がありますが、こうした「湯治」効果だけでなく、観光施設として人気を得ている側面もみられます。また湯治客の訪問により食文化や土産物の発展など文化面での効果も大きいものでした。
 今回の展示では、こうした温泉の有り様を特に「文学に描かれた温泉」に着目して、作家と温泉の関わりや温泉の描かれた作品について紹介します。
 文化に寄与した温泉の姿は、江戸後期の湯治人気の高まりと、明治以降の交通の発展がもたらした温泉人気に見られます。
 江戸後期には特に箱根の人気が高まりますが、これは街道の整備により江戸から箱根までの旅が容易になったこと、箱根が距離的に江戸から訪れやすかったことなどいくつかの理由が挙げられます。人気が高まった箱根では、土産物として箱根細工が発展し、江戸で刊行される滑稽本などに箱根の湯治の様子やその道中が描かれるようになります。有名なものが十返舎一九作の『東海道中膝栗毛』(請求記号:K97/24/1-1~10-2常置ほか)(リンクは初編上)です。今回の展示でも箱根が描かれる初編から二編を展示しています。他にも同じ作者による『金草鞋 箱根山七温泉江之島鎌倉廻』(請求記号:K97/130常置)や滝亭鯉丈・為永春水作の『温泉土産箱根草』(請求記号:913.55/7/1~12常置)などがあります。こうした作品に取り上げられることにより、箱根の温泉の人気はさらに高まっていきました。
 明治になると鉄道の開通など交通機関の発達により多くの人々が温泉を訪れました。明治から大正にかけて、箱根や湯河原の温泉には多くの文豪らが訪れた「文士宿」のような旅館も存在しました。文人墨客が箱根、湯河原などに逗留し、多くの作品が生み出され、また作品の舞台に取り上げられました。著名なものとしては、湯河原温泉を描きこの地に記念碑もある国木田独歩の『湯ケ原より』、『湯ケ原ゆき』(『国木田独歩全集』第2巻第4巻 請求記号:918.6/200/2・4所収ほか)、同じく湯河原温泉を舞台にした夏目漱石『明暗』(『漱石全集』第7巻 請求記号:918.6/175/7所収ほか)、箱根での逗留体験を描いた島崎藤村『春』(請求記号:F1/S38-3常置ほか)、森鴎外『青年』(『鴎外全集』第6巻 請求記号:91836/293/6所収ほか)、箱根の二大観光企業による「箱根山戦争」を背景に描いた獅子文六『箱根山』(請求記号:K97.85/11常置)などがあります。こうした作品には温泉地や温泉宿の風景が描かれる場合もあれば、作者の体験が直接的に描きだされる事も多くありました。
 今回の展示では「文豪と温泉の関わり」「近世の温泉文芸」を中心に県立図書館の蔵書を紹介しています。また関連展示として、本館1階多目的ルーム前に「神奈川県温泉地学研究所」を紹介する資料展示も行っています。ここでは、温泉地学研究所の研究報告書を主に展示しています。
 展示内容の理解を深めていただくために、7月1日(日)の14時から展示解説を行います。(約15分)展示を企画した担当職員による資料解説や企画の意図などを説明します。申込は不要ですので、時間になりましたら本館1階展示コーナー入口にお越しください。
 また、7月11日(水)まで新館3階エレベーターホールでミニ展示「箱根七湯と箱根温泉絵図」も開催しています。こちらも併せてご覧ください。
 「神奈川と温泉」にまつわる、主に温泉地の歴史や文化を取り上げた資料を紹介したブックリストとして「トピックスのとびら」No.154「かながわと温泉」を発行しています。館内で配布しているほか当館ホームページでもご覧になれます。

 今回の展示を通じて、県内の温泉と文化についての関心が高まれば、幸いなことと思います。
(情報整備課:企画展示担当)