日本の近代化と「県立の二つの図書館」

 輝かしい新春を迎え年頭のごあいさつを申し上げます。
 このお正月は、おせち料理と御屠蘇(おとそ)に囲まれ、ご家族や仲間と和気あいあいと過ごした方も多いことと思います。御屠蘇は平安のころからの祝いのお酒?のようですが、今は、朝から日本酒、さらにはワイン、ビールと、いろいろ楽しむ人も……。

 現在の我々に身近なビールは、横浜・山手の外国人居留地で国内生産が始まりました。文明開化を象徴するものとして明治の人々を惹きつけたようです(神奈川県立歴史博物館(2006)『日本のビール -横浜発国民飲料へ-』)。ビールに限らず、現代の生活になじみのある様々なものが横浜から始まりました。
 いわゆる「よこはま事始め」です。斎藤多喜夫『幕末・明治の横浜 西洋文化事始め(2017明石書店)』は、横浜開港から、ホテルの始まり、ビールのほかアイスクリームといった食の国際化、劇場や洋式競馬など興味の尽きない文明開化の様子を案内してくれます。文明開化の知識を携えて横浜の街を散策すると、さらに楽しい発見があるのではないでしょうか。

 「県立図書館」では、こうした神奈川ゆかりの本を「神奈川資料」として重点的に収集し、館内閲覧でご利用いただいております。さらに、幕末、明治以降の近代日本の歩みをたどる貴重な資料も数多く所蔵しています。
 その代表が開港期からの横浜の様子を描いた浮世絵です。「横浜絵」、「開化絵」とも言われ、当時の賑やかな港や街の様子、鉄道開通時の桜木町など、彩り鮮やかに伝えています。現在「県立図書館」では『浮世絵にみる文明開化』と題して、その一部を展示しています。さらに今年は、これら浮世絵のデジタル画像のホームページでの提供にも力を入れていきます。是非ご覧いただければと思います。

 日本の近代化ということに関しては「川崎図書館」も負けてはいません。同館は高津区・溝の口への移転準備のため現在休館中ですが、自慢は何といっても全国有数の約19000冊の社史コレクションです。当然に、社史は産業の近代化を担った企業の歴史であり、創業者の歩みも知ることができます。これを繙(ひもと)くことで、京浜工業地帯をはじめ、日本の近代産業の成り立ち、成長がつぶさに解かります。
 川崎図書館・県立図書館(2012)『社史と伝記にみる日本の実業家〜人物データと文献案内〜』は、神奈川ゆかりの浅野総一郎など明治以降の実業家の足跡をまとめています。本書を手掛かりに、近代日本の発展のため「ものづくり」に邁進した彼らの夢に想いを巡らしてはいかがでしょうか。

 横浜・紅葉坂の「県立図書館」は、横浜開港の際に設けられた神奈川奉行所の跡地に立地し、隣の「掃部山(かもんやま)公園」は井伊直虎、直政から時代を下ること300年、開国を推し進めた幕府大老「井伊掃部頭(かもんのかみ)直弼」を記念する公園で、いわば日本近代化の出発点とも言える場所にあります。「川崎図書館」も京浜工業地帯の発展を牽引した産業都市・川崎に位置し、科学技術の進化を集積しています。
 「県立の二つの図書館」は、こうした歴史的、地理的由来に相応しい図書館として、今後も、日本の近代化の姿を保存し、現代に活かし、未来に継承していきたいと思います。

 「本」と「司書」は、皆様のご利用をお待ちしております。

(県立図書館長・県立川崎図書館長 井出康夫)