『盤上の人生 盤外の勝負』 河口俊彦著

『盤上の人生 盤外の勝負』 河口俊彦著 マイナビ 2012年 資料番号:22623219 請求記号:796/140  OPAC(所蔵検索)

 今年は、史上最年少で将棋のプロ棋士になった藤井聡太四段が、デビュー戦から29連勝の新記録を達成し、話題になりました。藤井四段の活躍により、他の棋士もテレビに登場するようになりました。しかし、将棋ファン以外は棋士が普段何をしているか、どのように棋士になったかを知っている人は、少ないと思います。本書では、自身もプロ棋士である著者が、棋士の様々な逸話や印象的な一手を紹介しています。この本で、棋士の新たな魅力を見つけてみてはいかがでしょうか。
 本書では、34人の棋士が紹介されていますが、その中から、羽生善治と谷川浩司のエピソードを紹介します。羽生は、中学生で四段に昇段し、プロ棋士になりました。この本が出版された時点では、中学生でプロ棋士になったのは、羽生の他には、加藤一二三と谷川浩司、渡辺明しかいませんでした。この4人が全員、名人か竜王のタイトルを取っています。中学生でプロ棋士になるということは、棋士仲間から将来タイトルを取ると見られることを意味しているのです。羽生のデビュー戦では、谷川浩司が偶然将棋会館にいて、感想戦を眺めている写真が、「フォーカス」に載りました。谷川は羽生の前に、中学生で棋士になった人で、羽生が四段になった時には、既に名人のタイトルを保持していました。格調の高い差し手と「光速の寄せ」と呼ばれる終盤の鋭さを武器に棋界の第一人者として活躍していました。羽生のデビューの場に谷川がいたことは、両者がライバルになる事を暗示していたように思えます。この後、谷川と羽生はタイトル戦で度々対決し、多くの名局を創り上げていくことになります。
 羽生のピークは史上初の七冠独占を果たした時です。平成六年度、羽生は王将以外の六冠を奪取し、最後に残った王将戦も挑戦者になりました。世間では、七冠王の誕生を期待し、羽生ブームが起きていました。この時に、立ちはだかったのが、王将のタイトルを持つ谷川です。王将戦が始まり、第一局は谷川が勝ちます。その直後に阪神・淡路大震災が起こり、神戸に住んでいた谷川も被災してしまいます。しかし、この逆境に負けず、一週間後の第二局は谷川が勝ちます。その後、絶好調の羽生が盛り返し三勝三敗になります。第七局は青森県「奥入瀬渓流グランドホテル」で行われ、千日手指し直し局を谷川が制し、羽生の七冠独占を阻止しました。谷川が意地を見せ、阪神大震災の事もあり、感慨深い勝利になりました。平成七年度、羽生は全てのタイトルを防衛します。これも信じられないことで、リーグ戦やトーナメントを勝ってきた好調の棋士を相手に、六連続で防衛するのは至難の業です。そして、再び王将戦の挑戦者になり、今度は四連勝で谷川から王将を奪取し、史上初の七冠王になりました。
 この本では、世代の違う棋士を紹介しているため、すでに引退している棋士も含まれています。しかし、現役の棋士も多いので、これからプロの将棋を見たいという方は、読んでおくとより観戦が楽しめることと思います。

(県立図書館職員:王より飛車を可愛がります)