『旅する前の「世界遺産」』 佐滝剛弘著

『旅する前の「世界遺産」』 佐滝剛弘著 文藝春秋 2006年 資料番号:21955406 請求記号:709/206  OPAC(所蔵検索)

 姫路城・原爆ドーム・富士山。これらの共通点は・・・皆さんご存知の通り「世界遺産」です。世界遺産は現在1073件(2017年7月時点)。うち国内は21件。今や世界遺産登録となると多くの人々が訪れ、地域振興に一役買っているようです。マスメディアに踊らされていると感じつつも、興味がわいてしまうのは私も同じです。しかし、そもそも世界遺産とは何か?その疑問に答えてくれるのが本書です。
 著者は世界遺産を目的に旅をし、これまで50余カ国230件以上を踏破しているスペシャリストです。数々の世界遺産を訪れたからこそ分かる各国の文化・歴史・人々の営みなどは、大変興味深い内容です。
 世界遺産の誕生は1960年、ナイル川にアスワン・ハイ・ダムが着工された時まで遡ります。世界最大級のダムの建設によりアブ・シンベル神殿が湖中に没することとなり、それを知ったユネスコが救済事業を担ったことが始まりでした。
 冒頭で記したような世界遺産は、圧倒的な存在感で私たちを驚かせてくれるものばかりですが、一見シンプルであったり、ひっそりとした中に、その国の文化の底流や歴史の歩みが凝縮されている世界遺産もあります。数々の障壁を乗り越えて登録に至った世界遺産の価値や、直面する現実が分かるのも本書の特徴です。
 ドイツ風の町並みが世界遺産として登録されているフランス「ストラスブール旧市街」。スペインの町並みを彷彿とさせるメキシコの「オアハカの歴史地区」。これらは植民地であった歴史が今なお残っている証であり、バックグラウンドも含めて世界遺産だということが分かります。また、世界中が震撼したアメリカの同時多発テロの直後、更なるテロの標的になる危険性が高いという理由で「自由の女神像」は立ち入りが禁止されました。ドイツのケルン大聖堂は、対岸の高層ビルの建築予定が大聖堂の空間的価値を破壊するという理由で、2006年まで危機にさらされている世界遺産に登録されていました。世界遺産は決して不変ではないということも分かります。
 増え続ける世界遺産。その背景には、ユネスコというある種の権威が認定し、地域振興や観光開発に多大なメリットがある事が一つの要因だと著者は述べています。それだけ人々が世界遺産にブランド価値とロマンを掻き立てられるという事なのでしょう。人類の至宝を未来に託すために登録されることは大変意義のあることです。 しかし、ユネスコは「世界遺産の増加は十分な保護管理を難しくし、価値の低下を引き起こす」として、近年登録数の抑制を打ち出しています。著者もまた世界遺産を観光と結びつける近年の傾向に警鐘を鳴らしています。
 著書は最後にこう結びます。世界遺産を絶対視することなく、メディアや旅行会社の謳い文句に踊らされず、自分の目と感性を信じ旅を続けていくのが健全ではないか。
 私たちが未来への継承者であることを忘れずに。そう投げかけられている気がします。

(県立図書館職員:反省中です)