『台所に敗戦はなかった 戦前・戦後をつなぐ日本食』 魚柄仁之助著

『台所に敗戦はなかった 戦前・戦後をつなぐ日本食』 魚柄仁之助著 青弓社 2015年 資料番号:22837546 請求記号:O2ウオ  OPAC(所蔵検索)

 今年の元旦の新聞に「2017年は、戦後の本格的な学校給食が始まってから70年にあたる。「おなかいっぱい食べさせたい」という願いが、「体に良い物を食べさせたい」「食から学ばせたい」になった現代…といった学校給食の体制や献立が戦後70年間でどう様変わりしてきたかという記事が掲載されていました。単純に(不勉強で恐縮なのですが)、終戦から2年ほどで学校給食が本格的に始まったことに驚き、「当時の食糧事情は厳しかった」と何となく耳にしていたけれど実際はどうだったのか、当時の食卓を覗いてみたくなったとき、書架でこの本に出会いました。
 『台所に敗戦はなかった』という書名は、一見難しそうな堅苦しい印象を受けますが、大正7年創業の料理屋に生まれた著者が戦前・戦中・戦後の台所事情や料理レシピをユニークな語り口調で紹介しています。著者によると、戦争により確かに食糧は不足していましたが、食糧難といった苦しい話は一括りにされていることが多く、その場合、主語のほとんどは男性だったとか。男性が敗戦に打ちひしがれている間、家庭のお母さんたちは、とりあえず空腹を満たすため、あるもの、手に入るものをいかにおいしく食べられるようにするか、「この子に何とか食べさせなきゃ!」の一念で食事作りに立ち向かい奮闘していたようです。
 その奮闘ぶりは当時の婦人雑誌で紹介されていた料理レシピにも表れています。料理人である著者は婦人雑誌のレシピを読み解き、可能な限り実情に合わせて再現、実食しています。レシピの一品として紹介されている「すき焼き」では調理方法はもちろん、調理器具として鋤(すき)や鍬(くわ)を使って作ることができたのかにも挑んでおり、実験のような試行錯誤も楽しそうです。この本を読み進めていくと、書名にある敗戦云々よりも「何とか食べさせる!」という意地のような情熱に引き込まれ、戦争の違った一面を垣間見ることができると思います。
 第1章「すき焼き」から第8章「玉子チーズ」まで驚きのレシピが登場しますが、その中でもなるほどと思ったのが第2章「サンドイッチ」。明治時代から西洋料理として紹介されていたサンドイッチは、食糧事情の悪化に伴い「好きなものを挟む料理」から「あるものを挟む料理」に推移します。「あるもの」には鰹節や奈良漬などの漬物も含まれており、食糧難とはいえ、なぜ敢えて挟むのだろうと首を傾げてしまったのですが、「主食→副食→主食の順に重ねればサンドイッチ」という当時の解釈を知って、何とか食べさせるために料理の可能性を広げようとしたその知恵と手腕に感服しました。
 本書に紹介されている料理レシピには、当時の雑誌記事が添えられており、時代を窺い知る手助けになると思います。2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された和食の変遷の一時期を、真面目に面白く辿ってみてはいかがでしょうか。

(県立図書館職員:一汁三菜)