『愛する源氏物語』 俵万智著

『愛する源氏物語』 俵万智著 文藝春秋 2003 資料番号:21636832 請求記号913.36MM283  OPAC(所蔵検索)

 数年前、『源氏物語』の成立1000年を記念して展示、映画、ドラマなど様々なイベントが行われたのは記憶に新しいかと思います(実はもう9年もたっていますが・・)。それをきっかけに、「もっと深く源氏物語を読みたい。」なんて声を耳にすることも少なくありません。しかし、現代を生きる私たちにとって古文を読むというのはなかなか骨の折れる作業です。『源氏物語』は物語が長く、登場人物も多い。さらに人間関係が複雑に絡み合います。それだけでも参ってしまいそうですが、最も違和感をもつのは当時の恋愛作法。現代を生きる私たちには理解できないようなことがたくさんありました。例えば「和歌」。男性は顔も見たこともない女性(当時の女性はごく親しい人にしか顔を見せなかった)に和歌を送り、求愛しました。互いの和歌のやりとりで恋愛を深めていったのです。つまり、恋愛成就のカギを握っていたのは「和歌」。そして、この本は『源氏物語』の恋愛のカギ「和歌」にスポットを当てています。

 前置きが長くなってしまいましたが、著者の俵万智氏は現代歌人として有名です。この本では、その著者が源氏物語に登場する和歌を現代短歌に訳しています。学校で習うような散文的な訳ではなく、当時の和歌を現代短歌に訳しています。ここがこの本の一番のポイントであり、読んでみると一種の感動を覚えます。訳歌は著者独特のポップで親しみやすいものになっており、人物の感情がよく表れています。著者曰く、「和歌は心の結晶」。登場人物が多く、混同してしまいがちな『源氏物語』ですが、著者訳の短歌を読めば、和歌から人物の個性があふれて、その人がどんな人物かもなんとなく感じ取れる気がしてきます。
 他にも著者は、作品内の和歌から読み取れることを多く教えてくれています。当時の和歌の技法はもちろんのことですが、一首ごとに込められる愛情、嫉妬、勘違いなどなど。和歌の巧拙についての解説も含め、著者のユーモアに富んだ解説は読者を楽しませてくれるはずです。堅苦しい論文、評論とは一線を画している印象で『源氏物語』初心者でも存分に楽しめる充実した内容となっています。

 作品を読み進めていくと気づくのは、それぞれの人物が詠む和歌が全て原作者、紫式部によって詠まれているということです。主人公の光源氏も、プライドの高い六条御息所も、著者にボキャ貧と称される末摘花も和歌の出どころはみんな紫式部から。『源氏物語』には795首もの和歌が登場するそうですが、性別を越えて、身分を越えて自在に和歌を操る紫式部はやはり類い稀な才能の持ち主だったのではないでしょうか。

(県川:好きな登場人物は花散里)