『人と技術で語る天気予報史―数値予報を開いた金色の鍵―』 古川武彦著

『人と技術で語る天気予報史―数値予報を開いた金色の鍵―』 古川武彦著 東京大学出版会 2012 81513079 請求記号:451.28/44  OPAC(所蔵検索)

 2016年8月下旬に連続して発生した台風9号・10号・11号は、東日本に上陸して、北海道から東北地方に深刻な風水害をもたらしました。特に台風10号は、途中で進路を変えて上陸するという異例の事態になりました。また、11月24日には東京都心で54年ぶりに初雪が観測され、観測史上初の11月の積雪となりました。近年になっての、このような突発的な異常気象の増加は、地球温暖化が原因とされており、天気予報を難しくしています。
 本書は、日本の天気予報の歴史について書かれたものです。日本で最初に天気予報が発表されたのは、1884年(明治17年)6月1日で、現在のようなコンピュータを使った数値予報が開始されたのは、1959年(昭和34年)3月12日です。副題にある「金色の鍵」は、1959年の数値予報開始の時に、最初に導入された大型電子計算機IBM704を製造したIBM社から贈られた記念品のことを指しており、著者が現在の数値予報の出発点として、この出来事を特に重視していることを示しています。
 著者は、日本の天気予報の歴史を、主に地上天気図に基づいて予報者の経験と洞察力で予報が行なわれた「地上天気図時代」、アジア・太平洋戦争後に高層の気象データが付加された「地上・高層天気図時代」、電子計算機(コンピュータ)の導入による「数値予報時代」の3期に区分し、東京気象学会の設立、測候技術官の養成、天気予報と戦争の関係、コンピュータ導入時の様子、気象学者など、日本の天気予報の発展に関係する出来事や人物を紹介しています。気象庁に長年勤務していたため、その体験も随所に述べられていますが、日本で初めて数値予報が導入された時の様子は、特に詳細に書かれています。当時は経験則による予報が主流であったため、物理や数学を用いた科学的な予報である数値予報には反対もあったそうです。
 また、第10章で現在の天気予報について触れていますが、その中で「ゲリラ豪雨」の呼び方について「数値予報が進んだ現在でも、その予測が難しいといいつつ、このような雨でも原理的には予測可能である」という気象学の立場から、「予報技術の未熟さを揶揄するならまだしも、人々の間に、このような雨は本来的に予測しがたい正体不明のものと誤解を植え付けてしまうのは避けねばならない」と述べています。
 現在、気象庁や理化学研究所計算科学研究機構などの研究グループにより、気象衛星ひまわり8号やスーパーコンピューター「京」など、最新のIT技術を利用した高精度の予報が試みられています。本書を通して、天気予報が、私たちの生活にとって身近な存在であるが故に、より客観的で高精度なものを追求する“天気野郎”たちの軌跡を知ることができます。

(県立川崎図書館:天気如此)