『新・観光立国論』 デービッド・アトキンソン著

『新・観光立国論』 デービッド・アトキンソン著 東洋経済新報社 2015年 資料番号:22817589 請求記号:689.21 60  OPAC(所蔵検索)

 学生のころ「(観光資源として)富士山はなぜ美しいか」という文を書いたことがあります。山肌の滑らかな輝きや山裾が末広に広がる曲線美は、万人が理解する美しさである、という主旨でまとめました。この本の読後、それはあるがままの自然や文化を見せればよいといった角度からしか観光地を見てこなかった日本人の姿と重なり苦笑したのでした。

 この本の著者は在日25年超のイギリス人元アナリストであり、現在は国宝や重要文化財の修復を手掛ける会社の社長です。その経歴から、本文には多くの統計数字や図表が示され、統計に裏打ちされた文章と平易な文体で、経済に弱い私でもとても理解しやすい内容となっています。
 経済的に成熟した国がGDPの数値をあげるためには人口を増やすこと。この単純な図式が崩れようとしている日本にとって、人口を増やす鍵は短期移民、すなわち外国人旅行客を増やすことが必要と説くのです。
 『少子化が経済の足を引っ張る日本。出生率は、すぐには上がりません。移民政策はなかなか受け入れられません。ならば、外国人観光客をたくさん呼んで、お金を落としてもらえばいいのです。世界有数の観光大国になれる、潜在力があるのですから。』
 これはこの本の見返しにある一文です。そしてこの本の副題は「イギリス人アナリストが提言する21世紀の『所得倍増計画』」。なんと魅惑的な言葉でありませんか。

 日本は観光立国になるための4条件「気候」「自然」「文化」「食事」を満たしている稀有な国にも関わらず、なぜ観光立国になれないのか。彼はその原因を突きとめ、観光立国となるために必要な、マーケティングの手法やコンテンツを次々と提示します。マナーや治安の良さ、細やかなサービス、交通機関の正確さ、これらは日本の良いところではありますが、観光のアピールポイントにはならない、日本人は勘違いをしているというのです。
 著者の容赦のない辛口の提言は、読んでいる私の気持ちを萎えさせ、ときにはがっかりさせます。しかしそこには、日本の伝統文化や文化財を大切に思う著者の愛が感じられます。愛すればこそ、その良さを観光立国日本の財産として活かしたいという思いでいっぱいなのです。彼は日本のおもてなしブームについてはこう書いています。「観光とは、外国人を『おもてなし』することではなく、お金を払ってくれる外国人にしっかりとしたサービスを提供することなのです。」
 東京オリンピック・パラリンピックを4年後に控え、日本の観光産業は正念場を迎えています。あるがままの自然や文化をきちんと整備し、短期移民を増やすための努力をすること。この本の中には日本が観光立国となるためのヒントがたくさん詰まっています。

 今回紹介した本の続編とも言える本が今年3月に刊行されましたので併せて紹介します。
『国宝消滅』━イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機 東洋経済新報社 2016年 資料番号:22859813 請求記号:709 1 126  OPAC(所蔵検索)
 こちらも当館に所蔵しています。

(県立図書館 : 紫陽花娘)