新企画!「社会・人文系再発見シリーズ」連続講演会がはじまりました

講演会の様子 横浜に今季初の大寒波が到来した1月17日(日)、たくさんの方々に県立図書館へ足を運んでいただきました。連続講演会第一回の開催です。

 この連続講演会は本年度(平成27年度)からの新企画で、全四回の日程で開催します。「『持続可能な社会としての江戸』~今を生きるヒント」を共通のテーマに、四名の講師をお招きし、 それぞれのご専門からの切り口で「江戸」から「現代」そして「未来」を語っていただきます。 第二回以降については後述しますが、詳しくは講演会ポスター、チラシまたは当館ホームページをご覧ください。

 第一回は「持続可能社会としての江戸」と題して、田中優子氏(法政大学総長)を講師にお迎えしました。主に、江戸時代のエネルギー、江戸の循環社会、 江戸の文化の三点についてご講演くださいました。江戸時代のエネルギーは今に比べてはるかに低エネルギーであり、すべての物は形を変えて何度も消費されたこと、 町で消費されたもののすべてがしまいには農村に還っていく循環社会であったこと、江戸文化とはそのような社会とともにあったことなどを説明されました。 約六十億の世界人口のなかで一億二千万人が共有する日本文化は、世界的に見ればマイナーな文化です。そのマイナーな日本の、 江戸時代の文化となれば、更に少数派の文化です。けれどもその文化が今、世界中から注目されています。 江戸文化は現代の日本ではもはや見られなくなったと思われていますが、着物の「洗い張り」や小学校入学時に買ってもらう学習机に愛着を持って長く使うなどは、 江戸文化の名残であることなどを指摘されました。もちろん、江戸時代の生活を現代の日本人ができるわけではありませんが、より低エネルギーの生活の中で充足し、 不便を不便と感じない社会を一人一人が考えて作っていくことを目指すべきなのだと話されました。サステイナブル(持続可能な)社会と言うと環境学や生物学などの理系の概念のようですが、 人間社会を考える点で文系でも研究しなければならないテーマなのだと、まさに「社会・人文系再発見」にふさわしい示唆に富むご講演でした。

 他にも、田中先生ご自身の研究についてもうかがいました。田中先生は江戸文学を専攻されていましたが、テクスト(本文)を追うだけでは真の理解にはつながらない、 その背後にある社会や生活感覚までを含めた上での解釈が必要だとお考えになり、江戸時代についての研究を進められたそうです。たとえば、 浮世絵に描かれた行灯の下で裁縫や書物を読む江戸人の姿を見て「行灯の光のような小さな光の下で本当に裁縫ができるのか、 書物を読めるのか」と疑問を抱き、実際にやってみたそうです。もちろん、現代の裁縫の方法では無理があり、本も読むことはできませんでした。 しかし、直線的な運針のみの和裁であれば、暗闇の中でも手探りで裁縫は可能であり、当時の墨を用いた印刷の書であれば行灯の明かりでも読むことができることを確認されました。 その模様は 『大江戸生活体験事情』 (石川英輔・田中優子、講談社、1993(県立資料番号:22839666、請求記号:382.1/575))にまとめられています。

 横浜市出身の田中先生は、県立図書館を利用された経験もおありです。先生が研究者を目指された出発点の一つに、県立図書館での資料との出会いがあったと話されました。 人は本を購入しに書店へ行くとき、つい自分の興味の範囲内にあるところへ行ってしまいます。ただ本を見る目的で書店へ行っても、 買わずに立ち読みをすることへの後ろめたさがあります。いざ本を買ったならばすべてを読まねばもったいないという気持ちにもなります。読める本には限界があり、 どうしても視野が狭くなってしまいます。そんな中、開架資料がたくさんある県立図書館に行けば、人目を気にせず目次などから拾い読みをし、 多くの資料に触れることができ、普段は目に入らない資料も自然と視界へ飛び込んできて、手に取ることになります。 その中で 『金唐革史の研究』 (徳力彦之助、思文閣出版、1979(県立資料番号:11739794請求記号:755.5/4))という資料に出会い、 研究のインスピレーションを得ることができたそうです。そして生まれたのが、 田中先生の代表作の一つである 『江戸の想像力』 (田中優子、筑摩書房、1986(県立資料番号:12338588、請求記号:210.5/284))なのだそうです。 この本で田中先生は芸術選奨文部大臣新人賞を受賞されました。このように、図書館の利用、図書の楽しみ方についてもうかがうことができました。講演最後には短時間ながら会場の質問に答えてくださいました。 聴講された方々は、メモを取りながら熱心に聞き入られて、充実した講演会にたいへん満足されていた様子でした。講演会終了後は、会場に展示した関連資料もご覧いただきました。

資料の一部  さて、連続講演会は今後、第2回1月31日(日)に陣内秀信氏(法政大学デザイン工学部建築学科教授)「エコシティと水の都市江戸」、 第3回2月14日(日)に鈴木一義氏(国立科学博物館産業技術史資料情報センター長)「人に優しく、自然と共生した江戸時代の知恵と技」、 第4回2月20日(土)に渡辺尚志氏(一橋大学大学院社会学研究科教授)「災害と復興-復興を支えた共同の力-」を予定しています。おかげさまでたいへんご好評をいただき、 すでに定員を大幅に上回る応募があります。第4回の締め切りは2月2日(火)となっています。受講はすべて抽選により決定となります。

 県立図書館は社会・人文系リサーチライブラリーとして、社会・人文系分野での現代・未来に向けての諸課題の提示、解決への手がかり、 再発見等の機会を県民のみなさまに提供していきます。県立図書館を知るきっかけとして、知的創造の機会として、新企画「社会・人文系再発見シリーズ」連続講演会に、ぜひご参加ください。

(県立図書館企画協力課:連続講演会企画担当)