「大旆のデジタル撮影」

 神奈川県立図書館には、図書や雑誌といった、いわゆる“本”の形をしたもののほかにも所蔵している資料があります。その中でも群を抜いての“大物”が「大旆(たいはい)」と呼ばれる2旒(にりゅう)の旗です。横2メートル弱、縦は3メートルを大きく超える、ビッグサイズな図書館資料です。
 明治5(1872)年に起きた「マリア・ルス号事件」で当時の外務卿副島種臣(そえじまたねおみ)と神奈川県権令(県知事)大江卓(おおえたく)に送られたという、貴重な資料です。

 大旆とマリア・ルス号事件についてはこちらもご覧ください。

 ですが、このサイズとなると、「ちょっと見せてください」と言われてすぐにお出しする、ということはできません。まず、広げる場所が閲覧室にはありません。また、約140年前の布製の旗に刺繍と金文字で装飾や文字が描かれているというこの資料は一度広げたり仕舞ったりするだけで破損が進む可能性があります。(写真は、撮影費用見積のために広げている様子)
 かといって、ずっと仕舞ったままでは「なんのために図書館にあるのだ」ということになります。
 そこで、今回、この大旆2旒をデジタル撮影することにしました。これで、大旆を見たい人はいつでも(モニターを通してですが)大旆を見ることができるようになります。

 とはいっても、広げた大旆をデジカメでパチリ、と撮影すればよい、というものではありません。なにしろ一度広げたり仕舞ったりするだけで破損が進む可能性がある資料です。
 なるべく精細に、刺繍と金文字の様子までわかるよう、また、色合いも本物との違いをできるだけ抑えるようにしたいところです。(よく、商品見本の写真に「写真は実際の商品と多少色が異なります」と注釈がついていることがありますが、なるべくそれを避けたい、ということです。)

 そこで、今回は文化財などのデジタル化に実績のある、株式会社 堀内カラーさんにお願いして、出来るだけ厳密な撮影をしていただきました。私は、撮影の様子を準備段階から見学させていただきましたが、そのプロの仕事に圧倒されました。以下は、その様子の簡単なレポートです。

 まず、色合いを正確に再現するため、光を完全にコントロールする必要があります。そのため、コントロール不可能な自然光(太陽の光)が入ってこない場所が必要になります。さらに大旆を拡げる広さが必要になりますので、今回は、隣の音楽堂の舞台をお借りしました。

 4方向からのストロボの光が、均一に当たるよう(光が他の部分より強く当たると、そこだけ白っぽく映ってしまいます)、何度も計測して、ストロボの光の強さを調整していました。(さらに、カラーチャートという撮影用色見本を使って確認し、さらにさらに本番撮影時にもカラーチャートを置いて撮影していました。)
 そして、カメラの設置です。大旆くらい大きいと、フレームに全て納めて1枚撮りしても細部までは撮影できません。(現在最高品質の画素数のカメラでも、です。)
 そのため、刺繍と金文字の様子までわかる高精細写真は、短辺3分割、長辺5分割の、計15分割での部分撮影をすることになりました。 そのため、車付きの三脚から横にアームを伸ばし、その先にカメラを下に向けて撮影することになります。(写真参照)

 ですが、この状態で、カメラが正確に垂直方向に向いている必要があります。縦横、どの方向に傾いていても、台形に歪みが生じる為、高精細な写真になりません。

 

 

 そこで、計測器を使って水平を測ります。また、正確に三脚を動かすための三脚の移動経路を、レーザー光線をあてて確保します。

 

 

 さらに、横に長くアームを伸ばすと、アームがカメラの重さでたわみます。しかし、三脚から奥の、遠い部分を撮る時は長くても、手前の近い部分を撮る時はアームが短くなり、たわみが解消されます。すると、カメラの高さが高く(=大旆からの距離が遠く)なります。
 当然、その分大きく写ってしまうので、奥と手前では写真がつながらなくなってしまいます。その為、アームを伸び縮みさせる度に、カメラの高さを計測し、支柱の高さを調節します。

 1回撮影するごとにこれだけの作業を行い(横移動の時には高さ調節は不要ですが)、撮影した画像が前に撮ったものとつながっているかを確認し(隙間が生じていたら大変です)、次の撮影にうつるという細かい作業を15回やってやっと1枚の大旆の部分撮影が終わります。
 さらにカメラを変えて、「(解像度は落ちるものの)全体を見渡せる画像」を作るための撮影をし、大旆を取り換えてもう一度同じ作業を行って、やっと撮影終了です。

 その後、同時に撮影したカラーチャートの写り具合から細かな修正を加えるという作業が行われた筈ですが、そこは見学していませんので、レポートできません。

 出来上がった高精細デジタル版の大旆画像は、データ量が大きすぎて、ホームページでの公開はできませんが(部分写真1枚のデータ量が約200MB×15パーツ×2枚)、若干画質が低いものを神奈川デジタルアーカイブで公開しています。また、高精細デジタル版は館内での閲覧ができないか、検討中です。ご期待ください。

  • 「副島種臣宛大旆」
     サイズ:縦333cm×横187cm

  • 「大江卓宛大旆」
     サイズ:縦345.5cm×横198.5cm

高精細版「大江卓宛大旆(部分)」

(地域情報課 白石)