講演会「漢字ワンダーランド-受容と変容のヒストリー」を開催しました!

講演会「漢字ワンダーランド」 恒例の「文字・活字文化の日記念講演」を、今年は「漢字」をテーマに、平成26年10月26日(日)に開催しました。昨年、一昨年にもご講演いただいた福田武史先生をお招きし、今年も盛況で、会場の青少年センターの広い研修室が狭く感じられるほどでした。10月末とは思えない陽気と受講者の方々の熱意とで会場内は汗ばむくらいになり、窓を開けていたところ、お隣の結婚式場の鐘の音が鳴り響くハプニングもありました。大安吉日だったのです。
 ご講演は、古代の日本において漢字の読み書き(漢字の三要素=形・音・義)がどのように学ばれていたのかを追体験するというコンセプトで、受講者が自分で読んだり、探したり、考えたりする場面が準備されていて、ワクワク、びっくり、納得の連続でした。
講演会「漢字ワンダーランド」 テキストに用いられた『千字文』(センジモン)は、一字の重複もなく一千字を用いた、四字一句、全二百五十句(百二十五の対句)で構成される人間業とは思えない驚異の韻文です。梁(リョウ)の時代(五世紀末から六世紀初頃)に周興嗣(シュウコウシ)によって制作され、日本には応神天皇の時代に百済から献上されたと『古事記』に記されているそうです。
 平城京よりさらに古い藤原宮時代の木簡から、当時の人が現代の小学生と同じように漢字を繰り返し書いて学んだこと、お手本となったのが『千字文』であることがわかります。江戸時代まで長く幼学書(初級教科書)として用いられ、現代でも書道のお手本として大切にされていますが、単なる習字手本としてだけでなく、暗誦することによって様々な教養が身につく読本として、音・義(=意味)の面からも重用されてきたのだそうです。
 まず「形」について、この『千字文』には由緒正しい字形の他に多くの異字体が含まれており、現代の、止め・払いまで厳密にチェックされる漢字教育の在り方と違って、多くの異字体が社会的に許容されてきたことがわかります。
 次に「音」に関して、漢字には「声調」という音の高低や上げ下げのイントネーションがあり、四種類なので「四声」と呼ばれます。「四声」を表すための伝統的な表示法は、現行の漢和辞典にも多く採用されているそうです。『千字文』は「四声」の韻をふんでいるのですが、「関関同立」「早慶戦」などのように、漢字の並び順に特別な意味がないと思われる現代の語にも、実は「四声」による並び順の規則性が生きているというお話に、受講者の皆さんから「あ、本当だ!」「な~るほど!」と納得の声が上がりました。
 最後に「義」について、意味によって漢字を分類した「義書」という漢字辞書が紹介されました。現存最古の漢字辞書は『爾雅』(ジガ)という書で、儒学における基本図書の一つに数えられ、非常に尊重されたそうです。一見すると漢字が並んでいるだけで意味不明に見えますが、「AはBなり」という方式を教わって、私たちにも読み解くことができました。
 福田先生独特の熱のこもった愉しげで明瞭な語り口に引き込まれ、また『千字文』などの資料のおもしろさに夢中になり、あっという間に時間が過ぎ、「時間を延長しても、もっとお話を聞きたかった」とご感想を書かれた方がありました。講座担当の私も、漢字の不思議な世界(ワンダーランド)の入口を覗いたようで、お話の中に散りばめられたひとつひとつのテーマについて、もっと掘り下げて聞いてみたいと学習意欲をそそられました。
「皆が夢中になる会場の雰囲気も良かったです」「難しいことをとてもわかりやすく話していただいた」「目から鱗の一日でした」「来年も福田先生で」などのご感想を寄せていただき、好評のうちに閉会することができました。
 福田先生の魅力と受講者の方々の熱意でとても楽しい会になり、会場に展示した県立図書館の蔵書を借りて行かれる方もあり、担当としては心からうれしく、感謝の気持ちでいっぱいです。
 現在、福田先生は、『NHKラジオテキスト 英語で読む村上春樹 世界のなかの日本文学』(NHK出版 2014年)の6月号から、魅力的な連載記事を執筆されています。村上春樹を読んだことのない方でも十分に楽しめる内容ですので、ご案内いたします。

過去の県立図書館、県立川崎図書館の「文字・活字文化の日記念講演」に関する記事についてはこちらをご覧ください。

(県立図書館職員:文字・活字文化の日記念講演担当)