『死者の結婚』 櫻井義秀著

死者の結婚『死者の結婚』 櫻井義秀著 北海道大学出版会 2010年 資料番号:22416275 請求記号:385.7/151 OPAC所蔵検索

 不思議なタイトルと、粗雑な印象の祝言を描いた絵に引かれて頁を開きました。「婚活」という言葉が流行して久しくなりますが、最近は「終活」という言葉もよく耳にします。本書はこの二つを足したような内容でした。
 「死者の結婚」(以下、冥婚と称する)とは遺族が死者に結婚をさせる習俗で地域により冥婚・鬼婚・死後婚・魂魄婚姻・亡霊婚などといいます。本書はムサカリ絵馬・花嫁人形を軸に、冥婚の仕組みを探究するものです。
 山形県の長秀寺や立石寺にあるムサカリ(結婚を意味する山形県の方言)絵馬・ムサカリ人形は、未婚で亡くなった子に遺族が結婚式の絵馬や婚礼衣装を着た人形を奉納するものです。明治初期から記録があり、死因は戦死が多いようです。絵は素人っぽい方が好まれ、絵師は多くの仲人をこなした保険外交員が行ったりします。被奉納者は夭逝した長男が多く、子を不憫に思う気持ちと共に祖先崇拝の思想が関係しています。例えば奉納の契機として、「次男が良縁に恵まれない」「次男の子供が病気になった」などがあります。親は自身で奉納を決める場合もありますが、時にオナカマと呼ばれるシャーマンに相談します。オナカマは未婚で亡くなった長男が本来自分が継ぐべき家系を継承している者に祟っていると告げ、絵馬の奉納を勧めます。そこには家長の地位を継承できずに亡くなった者は祖霊の地位を得られない、という思想があるとされ、絵馬による象徴的婚姻により家の成員権を与えていると考えられています。
 花嫁人形とは青森県の弘法寺や川倉賽の河原地蔵尊、恐山などで行われる、未婚で亡くなった子に花嫁姿の人形を奉納する習俗です。歴史は新しく、西の高野山と呼ばれる弘法寺で昭和初期、その他は昭和50年代から広まりました。死因は戦死に始まり、近年は病死・交通事故など様々です。被奉納者は男子が多くなっていますが女子もいて、その場合は花婿人形も奉納します。長男に偏重していないため家督相続の意識は薄いと見られ、霊魂の不滅を信じることで完全なる喪失はないものとする、遺族の痛みを癒すための行為とされます。時にはカミサマと呼ばれるシャーマンが介在します。またムサカリ絵馬もそうですが、花嫁の対象者は殆どの場合実在せず、人形の名前も遺族が付けています。本書では沖縄のグソー・ヌ・ビーチという冥婚にもふれていますが、これは家族で何か問題が発生し、親族内に離婚して亡くなった女性がいた場合、ユタと呼ばれるシャーマンを介して女性の骨甕を先夫の骨甕に並べて安置する習俗です。対象者は実在しており、他に中国・韓国・スーダンの冥婚も紹介していますが、いずれも実在者同士の組み合わせで、生々しい感覚を覚えました。反面、架空のお嫁さんを供えるムサカリ絵馬・花嫁人形には、悲しみの中にもほのぼのとした穏やかさが感じられます。
 不思議な冥婚の世界を貴方も旅してみてはいかがでしょうか。

(県立図書館職員:下風呂温泉にまた行きたい)