県立図書館 文字・活字文化の日記念講演 「知っているようで知らない『古事記』 ~『古事記』の歌の世界」

講演の様子(福田武史先生)

講演の様子(福田武史先生)

 平成17年の「文字・活字文化振興法」の施行以来、10月27日の記念日前後に毎年行っている講演会ですが、今年は1975年生まれの若い(&かっこいい?!)福田武史先生をお迎えして、今年が編纂1300年の記念の年にあたる『古事記』についてお話ししていただきました。記念の年ということもあってか、受講希望のお申し込みもたいへん多く、抽選してもなお定員をはるかに超える80名以上の受講者で、受付開始早々から会場が埋まっていきました。
 先生は今回が“講演デヴュー”だったそうですが、さすが!いつも大学で教えていらっしゃるだけあって、話す調子も資料の見るべき個所の指摘もとてもわかりやすく、『古事記』の魅力が満喫できたひとときとなりました。

 さて講演は、『古事記』のなかの、地元・神奈川が舞台となっている「倭(やまと)建(たける)命の東征」の段からはじまりました。原文に忠実に読むということの大切さを、資料をもとに丁寧に解説されていきます。「“相模国”、つまり今の神奈川県に相当する場所でおこった事件だと書いてあるのに、事件がおきた“焼津(ヤキツ)”という土地を、今の静岡県の焼津だとするのはおかしいと思いませんか?」というふうに、先生の案内で原文に忠実に読んでいくと、通説の矛盾が素直に感じられて、思わず深くうなずいてしまいました。

ワニ説の絵本

①ワニ説の絵本

 次に、では実際の『古事記』の原文は、どのように表記されているか見てみようということになりました。『古事記』本文書きはじめの一文である“天地初發”。この部分は、漢字を見れば意味はだいたいわかりますが、どういうふうに読めばよいのかという点では、古来諸説あり定まっていないそうです。一方、「いなばのしろうさぎ」の段の“和迩”という語については、“ワニ”という音(ヨミ)ははっきりとわかるのですが、「海にワニがいるか?」などの疑問から動物のワニ説/サメ説が並列しており、受講者の方々にも手を挙げていただいたのですが、やはり支持者がきっぱりわかれました。皆さん、それぞれに信ずる根拠をお持ちの様子でしたが、先生によると「正解はわからない」のだそうです。このように、『古事記』の本文は「訓(意味)」優先と「音(ヨミ)」優先の、2種類の書き方を採用しているというお話でした。

サメ説の絵本

②サメ説の絵本

 続いて、『古事記』のなかでも「音」のみで書かれているので、特別なものとして読むべきであると先生がおっしゃる「歌」についてのお話に移りました。例として挙げられたのが、雄略(ゆうりゃく)天皇と赤猪子(あかゐこ)という女性の物語。通説の解釈では「え~、それはない!ひどすぎる!!」という歌の内容が、先生の“原文に忠実に読む”解釈をうかがうと、あら不思議。赤猪子とともに感激してしまうという、マジックのようにあざやかな転換が。

 盛り沢山な内容を丁寧に話していただいたので、用意された資料を少し残すこととなってしまいました。受講者のなかにはたいへん残念がって、「最後まで聞きたかった」「連続講座を開いてください」などとアンケートに書いてくださる方もいたほどです。質疑応答も、既定の時間だけでは終わらず終了後に何人かの方が順番を待って、先生に質問をしたり感想をお話ししたりしていました。
また、先生から補足として、配布した『古事記』関連の当館所蔵図書リストのなかから「『古事記』自体を読むならこちらがおすすめ」など、何点かあげて紹介していただきました。そのまま借りて帰られる方もいらしたようで、図書館としてはうれしいことでした。

 先生は上代文学がご専門ですが、辞書にも詳しかったりするなど、豊富な知識の“引き出し”をお持ちのようです。次の機会(!)には、どのようなお話がうかがえるのか、楽しみにしたいと思います。

※掲載した絵本
『イナバの白うさぎ 日本の神話3』(西野綾子文、阿部肇絵 ひくまの出版 1989)
『いなばのしろうさぎ』(いもとようこ文・絵 金の星社 2010)

(県立図書館職員:文字・活字文化の日記念講演担当)