サイエンスカフェ結果報告(第48回)

老化と筋萎縮について:冬眠の遺伝学研究と宇宙生物学はどのように役立つのか?

テーマ老化と筋萎縮について:冬眠の遺伝学研究と宇宙生物学はどのように役立つのか?
講師オレグ グセフ(Oleg Gusev)博士
(イノベーション推進センター 理研-KFU応用ゲノム特別ユニット ユニットリーダー)
日時2017年6月11日 14:00~16:00
オレグ・グセフ博士
講師のオレグ グセフ(Oleg Gusev)博士

【概要】
  私たちの筋肉は活動と時間経過によって変化していきます。 その変化は、実は老化や宇宙生物学、動物の冬眠の研究などとも科学的に結びついています。
  今回のサイエンスカフェでは、理化学研究所 イノベーション推進センター 理研-KFU応用ゲノム特別ユニットのオレグ・グセフ博士をお迎えして、 現代の分子テクノロジーをどのように応用することができるのか、冬眠しながら筋肉が萎縮しない動物のゲノム(遺伝情報)はどんなことを教えてくれるのかなどについて、お話しいただきました。


<講師ご自身について>


<火星に生き物はいるのか?>


<ネムリユスリカの乾燥耐性>


<乾燥耐性のメカニズム>


<遺伝子にどのような秘密があるのか>


<乾燥保存>


<その他の研究>


【質疑応答】

講演中の写真
講演中の様子

Q.パンスペルミア説の話で、ネムリユスリカ以外の他の生物も、昔の生き物の中に、他の生き物が入ってきて進化していったと考えられるのか。

A.これには大きな疑問が2つある。1つ目は、ネムリユスリカ程度の乾燥耐性を持つものなら、地球にたくさん残っているのではないかというもの、2つ目は、ネムリユスリカの中に入った微生物は、ネムリユスリカが死んでも絶対に生き残るのではないかというものである。


Q.難病を患っている人を、ネムリユスリカのエッセンスで眠らせ、医学の進歩を待って目覚めさせることは可能なのか。

A.かつては乾燥細胞保存が可能になるとは信じられていなかったが、現在では人間の細胞を3年ほど乾燥保存させることが出来ることになったので、5年後あたりはどうなるか本当に分からない。実際に冷凍保存でネムリユスリカのLEAタンパク質を入れたら、保存期間が延びたという結果も出ている。


Q.自分の若い細胞を保存しておくことはできるのか。

A.現在は冷凍保存だが、バイオバンクはすでにある。iPS細胞が出てきたが、若いうちに乾燥保存できれば安全で楽である。乾燥保存なら自然に乾かすことが出来るので、温度や電気の有無にも左右されない。近年は化粧品にLEAタンパク質を入れるという話も出てきている。


Q.注射1本で人間も冬眠に入れる時代がくるのか。

A.ミューテーションや筋肉を使わなかった場合、動かせなくなる筋肉とボロボロにならない筋肉があるので、メカニズムの違いを比較し、遺伝子と筋肉の関係を明らかにしたい。今はマウスで研究をしているが、いずれ実現する可能性は高いと思う。


Q.冬眠前後で体の状態に変化はないのか。

A.乾燥は何も動かない状態になるが、冬眠は脳がコントロールしており、冬眠中も脂肪を消費しながら生きている状態である。エネルギーが必要なので、きちんと脂肪を蓄えて寝る必要がある。


Q.脂肪が蓄えられず痩せている場合は、冬眠に入れないようになっているのか。

A.十分に蓄えられなくても冬眠に入れてしまうため危ない。ヤマネも上手く脂肪が蓄えられていないと死んでしまう。


Q.冬眠中の動物たちの代謝はどのようになっているのか。

A.体と脳の温度は1ケタ代まで下がることもあるが、起きるとすぐに動くことができる。温度が下がるからこそ、冷凍保存のように分子生物学的に保存できるとも言える。ただ、クマは別で冬眠中も温度が変わらないため、その分エネルギーを消費する。


Q.哺乳類と、魚類や爬虫類の冬眠に違いはあるのか。

A.例えば、魚類の休眠では水温の関係もあり、それほど体温は下がらず、寒くてもタンパク質によって血液が凍らないようになっている。爬虫類のカメやヘビなどは、元々、外の温度にあわせて変温する生き物である。哺乳類と比較して、メカニズムが似ているところと似ていないところがある。


Q.哺乳類が、冬眠で寝たり起きたりするメカニズムは分かっているのか。

A.まだ不明である。遺伝子との関係は面白いので研究テーマとなっている。特に温度と遺伝子の関係は複雑な問題である。例えば、メンタイの仲間(カワメンタイ)は、温度が4℃以上だと発生しないという面白い仕組みを持っている。


Q.もしも人間が冬眠したら、筋肉は落ちないのか。治療中だけでも冬眠出来たとしたら、歩けるままなのか。

A.冬眠そのものをいうよりも、動かなくても筋肉がボロボロにならないメカニズムが分かったら、それを病院でも応用したいと考えている。物理的なシグナルがなくても、歩く時の遺伝子的な流れがわかれば、筋肉の動きも守れると思っている。


Q.運動不足とは違って、老化で筋萎縮するのは避けられないのか。

A.運動不足の場合は、筋肉の繊維のうち、遅筋が弱くなり、速筋が大きくなる。老化の場合はこれが逆になる。年をとると運動不足に老化が重なって大変だが、シグナルなどのメカニズムが分かれば、筋萎縮を避けられる可能性はある。


Q.ネムリユスリカは何回も乾燥する経験をすることで、LEAタンパク質や乾燥する速さなどに違いが出てくるのか。

A.ネムリユスリカにとって、乾燥の経験は重要である。研究室にいるネムリユスリカは、乾燥のストレスを受けないために弱くなっている。乾燥の経験のあるネムリユスリカは、アセトンのような化学物質や乾燥に対して強くなる。必要なタンパク質やトレハロースをつくるために、乾燥には2日必要だが、一度乾燥して復活した直後は、すぐに態勢を整えることができる。


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